「名探偵に薔薇を」 城平京 創元推理文庫


「藤田さん、名探偵を信じますか」

うぅむ。
これは心を刺します。
名探偵は知力を尽くし事件を解決へ導きます。名探偵は事件を解決する限り名探偵であり、またそれぞれの事情により名探偵であり続けます。
しかし、本書の名探偵瀬川みゆきの抱える「名探偵の事情」はかなり個人的で切実なものです。
読んでいて堪えました。
怪奇色強い第一部「メルヘン小人地獄」が名探偵の登場であっさりかたずくとそのまま第二部「毒杯パズル」へとなだれ込むのですが、この構成がうまく働いていてとても良かった。あとがきで二部→一部の順で書かれたというネタバレがあり、なるほどと思いました。
二部では一部で登場した主要人物が事件に巻き込まれます。パズラーとして練られているので指を繰る手が止まりませんでしたが、裏で徐々に語られていく瀬川ことみの内情にどんどん苦しめられます。
「人は前を向いて生きるしかないんだ」それはどんな真実をも受け止めて歩んでいかなければならないということです。名探偵であろうとする事と何かを削ぎ落としていく事はここでは同義なのです。知らない方がいい真実、それを暴くのもまた名探偵なのです。
ラストには本書のタイトル通り、誰もが名探偵へ薔薇を手向けることでしょう。
ミステリ作品としても面白く読めましたが、これは「痛み」の物語でした。



かなりのネタバレになりますが、百合要素なラストはちょっと違和感あり。ですが百合スキーの皆さんは是非読みましょう。いいですよね、百合


ちなみに城平京は漫画「スパイラル」の原作者ですよ。スパイラルは未読なので読むつもり。先に小説版に手を出すかもしれません。